「ふぁ〜あっ」
これで五回目。少年は呆れて隣の男を見た。
「眠そうだね、セー」
「うるさいな。ほっといてくれよ。どうせ、俺はガキだよ」
すっかりふてくされてしまったセレシアを困ったように見遣って、再び視線を前方に戻す。
結局、セレシアは寝過ごし、カイルとリヴィウスに叩き起されたのだ。
カイルは、いくら起こしても起きないセレシアを本気で置いて行こうかと思ったが、後が怖かったのでとりあえずやめておいた。
「でもさ、セー」
と前を向いたまま声をかける。
「リヴィウスさんが最後に言ってたこと。あれどういう意味なんだろう?」
「ああ、あれね……」
カイルとセレシアが旅立とうとしたとき、見送ったリヴィウスがにっこりと微笑んで言ったのだ。
「また、近いうちに会えますよ」と。
カイルは、ずっと気になっていたリヴィウスの言葉の意味をセレシアに訊いたのだ。
出発する自分達にそう言うからには、リヴィウスも同じ所へ行くのだろうか。
しかし、カイルの行き先はいまだ未定。なのに、近いうちにとはどういうことだろう。リヴィウスはカイルの行くべき場所を知っているのだろうか。
幻のカナンを――。
「あいつは神出鬼没だからな」
「どういうこと?」
「そのうちわかるさ。ところで次の予定は?」
はぐらかされたと思ってむっとしたが、考え直してセレシアの質問に答えた。
「とりあえず、ナザクへ行く」
「は?」
「……」
「ちょっと待てよ、おい。俺の聞き間違いじゃなきゃ、ナザクへ行くと聞こえたんだが」
「間違ってないよ」
カイルは答えて歩く歩調を少し早めた。次に起こることを予想したからだ。
そして、カイルがセレシアから五歩ほど遠ざかったとき、それは来た。
「ナザクだとぉ!」
セレシアが大声を上げたのだ。
「ナザクといやあ、確か、砂漠を突っ切っても二週間以上かかる距離じゃねぇか」
「だから、何」
カイルが冷ややかに振り返る。
「言っただろ。俺のやることに口出しするなって。別にいいよ。ついてこなくても。俺はあんたが居ても居なくてもどっちでもいいから」
「……っ。わかってるさ。で、砂漠を突っ切っていく道を選ぶんだろ、お前さんは」
セレシアが肩をすくめると、カイルは当然という風に頷いた。
「まぁったく、かわい気がないったら。最初の頃の礼儀正しい少年はどこへ行ってしまったんだろう」
セレシアは嫌だ嫌だと少し前を行く少年の背中を恨めしそうに眺めた。
「うるさいぞ、セー。そんなに喋っても疲れるだけだぞ。それに……」
言ったん言葉を切り、笑いを含んだ目で背後の男を振り返った。
「俺は、俺が自分より優れていると思った者にしか敬意を表さない」
「……」
面と向かってここまではっきり言われると怒る気も失せる。セレシアは黙って歩いた。カイルもただ黙々と歩いた。
とりあえず、砂漠の手前にある都市で改めて装備を整えなくてはならない。そのために少しでも歩を進めておきたかったのだ。
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