シャイン達から離れた私はさり気なく盗賊ギルドのある方へと歩いていった。
何が目的でつけていたのかはわからないが、目標が分散すれば慌てるだろうと思って咄嗟に行動したのだが、さあ、どう出るか。
 まあ、こっちについてこなくてもいっこうにかまわない。とにかく、このことをギルに知らせに行こう。
 私はそう思っていた。
 だから、突然路地から伸びてきた手に掴まれたとき、一瞬判断に迷った。その時すぐに大声をあげていればと後になって悔やんだ。
「本当にこの娘なんですか?」
 私の口を片手で塞いだ男が背後に声をかけた。
「ああ、間違いない。宿屋で見た、あの娘だ」
 ざあっと血の気が引く音が聞こえたように思った。連中がつけていたのは他の誰でもない。私だったのだ。
「まさか、こんな街で手に入るとは思わなかった」
 その声にぞくっと体を震わせた。自分の研究のためなら何でもする、錬金術師によくあるタイプの男だ。
「白き契約の乙女よ」
 何? それ……。
 その時私の視界の隅を見知った顔が横切った。
 ギルだ。
 私は思い切り背後の男を突き飛ばした。不意打ちをくらって私の口を塞いでいた手がずれた。
「ギ……ル…っ!!」
 必死の思いで叫んだ名前も仲間の耳には届かなかった。
「くそっ!」
「っつ……!?」
 振り下ろされた手刀があやまたず首筋をとらえる。急速に薄れていく意識の中で、私は、また呆れられるなあとぼんやりと考えていた。



「……何だって! ユーリがいなくなったぁ!?」
 宿屋に戻ったギルは、先に帰っていたシャインから話を聞くと、だから言わんこっちゃないというふうに頭を抱えた。
「すまない。俺がもう少し注意していれば……」
 複雑な表情でいうシャインに、お前のせいじゃないと手を振って見せながら溜息をついた。
「全く、あのお嬢ちゃんは慎重という言葉を知らんのか。心配する者の身にもなれって言うんだ。なあ、シャイン」
「……時々あの無鉄砲さはわざとやってるんじゃないかと思うことがある……」
 ユーリは、感情の起伏の乏しいこのエルフにここまで心配そうな顔をさせるのは自分だけだということを信じていないらしい。全くもって困ったものである。
「すみません。私が品物に見入ってしまったから」
「レイリアの責任じゃない」
「はいはい。お前の責任でもないさ。シャイン」
 わざと明るい声を出して、ギルは沈み込みそうになる雰囲気をすくいあげる。
 一般的にはトラブルメーカーと言われる盗賊だが、こういうとき盗賊のギルが一番頼りになる。
歳がパーティーの中で一番上で、その職業柄いろんな修羅場をくぐり抜けてきているからだろう。
 過ぎてしまったことを嘆いても仕方がない。これからできることをやればいい。
 それを身をもって知っているのだ。
「まだ、マイク達も帰ってきてないし、俺はもう一度ギルドに戻って……」
 と言いかけたギルの耳に賑やかな声が聞こえた。
 そのマイク達が帰ってきたのだ。
「……だぁって、見たんだもん」
「……そんなわけないだろー」
 何やら言い争っている。
「どうしたんだ? 二人とも」
 とりあえず騒々しい二人をテーブルに招いてギルは訊いた。
「聞いてよ、ギルー」
「ビッキーのやつが紐を外してどっかいっちゃってさー」
「お帰りなさい。いい武器はありました?」
 まくし立てようとするマイクに、レイリアがおっとりと話しかける。
「ああ。見てくれよ。これ!」
 マイクは嬉しそうに腰の剣を指す。
 どうやら欲しかった剣を手に入れられたようだ。
「すごいですねー」
 感心するレイリアにマイクは剣を抜いて見せる。
「振り回すな、マイク」
「いいじゃないか、少しくらい」
 ギルに嗜められてマイクはしぶしぶ剣を鞘に戻す。
「掘り出し物はありました?」
「あ。それな。よくわかんなかった。武器屋の親爺に何か言われたけど。だから、ユーリに一緒に来てもらおうと思って……。そういえば、ユーリは?」
 気づくのが遅い。ここにきて仲間の緊迫した雰囲気にマイクは怪訝そうに首を傾げた。
「何かあったのか?」
 一同を代表するようにギルが言った。
「ユーリがいなくなった。……それも、連れ去られた可能性が高い」
 驚いてシャインを見たマイクにシャインは黙然と頷いた。ギルがそれまでの経緯を手短に話す。
「じゃあ、ビッキーが言ってたのは……」
 マイクの呟きに皆が一斉にビッキーを振り返る。
「ビッキーがなんだって?」
「だからさっきから言ってるのにっ」
 むくれるビッキーをレイリアが宥める。
「そんなに怒らないで。話は聞きますから。ね」
 ビッキーをレイリアに任せてマイクは説明する。
「ほら、さっき言いかけただろ。ビッキーが紐を外していなくなって」
「ああ。それで」
「その時、ユーリを見たって言うんだ」
「本当か!」
 

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